「うわ、やべーなぁ・・・。雨降ってきちゃった。それじゃ、そろそろ帰るね。」
カンナは帰り支度をしようと立ちあがった。
「え!?こんな雨の中!?」
すいとあやめは声を揃えて心配した。
「へーきへーき!今日は楽しかったよ。ありがとね。」
そう言ってカンナがバイクのヘルメットを手に取ろうとしたとき、あやめの母が慌ててやってきた。
「カンちゃん!あぁ~まだ居でけでいがった~!雨ひでぐなってきたがら、カンちゃんもウヂさ泊ってってけれ。嵐になるみったがら。」
すいとあやめは嬉しそうに顔を見合わせた。
「あ、いや、でもうちのオヤジがうるさくてねぇ・・・半人前が遊び歩いてどーのこーのって。あははは。」
すると、あやめの母が
「お父さんから電話があって、お家のほうはもっと凄い雨で車でも走るのがやっとなぐれだがらカンちゃんを泊めさせてもらえねが?って。だがら遠慮なぐ泊ってって。」
と事情を説明してくれた。
カンナ) 「うあぁ~。そうなんだ・・・。いやぁ、うちのガタガタの酒蔵大丈夫かぁ。・・・あ、それじゃ、お言葉に甘えて。女将さん、お世話になります。」
あやめ) 「うわぁ♪今夜は楽しくなりそう!」
すい) 「うん!嬉しいなぁ~。」
カンナ) 「・・・って事ですいチャン、若女将、二人ともヨロシク。」
あやめ) 「えぇっ?わ、私はまだ若女将じゃないし、なるって決めてないんだからぁ~もぉ~。」
物凄い音の雷が鳴り、天気は益々悪くなっていったが、天気予報では夜のうちには嵐が通り過ぎるようだったので明日の文化祭はきっと大丈夫だろうと、すいもあやめも一先ずホッとした。
この日は急遽カンナも泊ることになったので、旅館の客室に3人で泊ることになった。
「ふあぁぁ~。いいお湯でしたぁ。」
すいが部屋の戸を引くと、髪を結い上げ、頬をほんのりと桃色に染めたカンナがいた。
「すいチャン、一緒に飲も~ぜ~♪ あははは。な~んてな~。」
すいは酒を飲んで上機嫌になっていたカンナの少しはだけた浴衣姿に思わず息を飲んだ。
(ゴクッ・・・大人のオンナ・・・!(ドキドキ))
後ろからあやめがお盆を持って歩いてきた。
「まったく、母さんったらこんな時でも人使い荒いんだがらぁ~。・・・あ、すい?カンちゃんと一緒に先にご飯食べてて!今ジュース持ってくるから♪」
そう言ってお膳を並べたり、カンナにお酌したりしてせかせかとまた部屋を出て行った。
すい) 「・・・すい手伝ってこようかなぁ~。」
カンナ) 「大丈夫、大丈夫。実はああ見えて好きでやってるんだから。それに、やらせておけって神様も・・・」
すい) 「神様!?」
すいはいつからか神様という言葉に敏感になっていた。
カンナ) 「お?あやチャンの横にいたの見えなかった?ほら、女の子の。」
すいは、前にあやめの家で女の子の声を聞いたことを思い出した。
すい) 「あ、座敷わらし・・・?」
カンナ) 「あははは。ほら、何か感じたことがあっただろ?あれは座敷わらし・・・ってゆうか、弁財天だな。」
すい) 「弁財天・・・様?あ、あの、カンナさんには見えるんですか!?す、すい・・・」
カンナ) 「すいチャンには水神が宿ってるよね。」
すい) 「あ・・・!」
すいはドキッとした。
カンナ) 「アタシには、酒神(しゅしん)っていう神が宿っているよ。」
さらりと答えるカンナにすいは安心感を抱いた。
カンナ) 「だから、利き酒で競ったらアタシは誰にも負けない。そんで、うちの神と、水神だって深い繋がりがあって、あやチャンとアタシらも深い縁があるのさ。」
すい) 「そう・・・だったんだぁ・・・。」
すいはこの時、ずっと抱いていたモヤモヤが晴れて行くのを感じた。
「カンナさん、すい、どうやったら水神様に会えますか?」と聞くとカンナは、「う~ん、慣れかなぁ~。目には見えなくても万物に宿る神々をいつも意識していれば自然と見えてくるよ。」と答えてくれた。
「ふぅ~~~。終わった終わった~!すい、ジュース持って来たよ。」
あやめが旅館の手伝いを終え戻ってきた。
すい) 「あやめちゃん?」
あやめ) 「ん?どうしたぁ?」
すい) 「あやめちゃんの横に女の子が立ってるって。」
あやめ) 「・・・え?・・・ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!怖い~!!」
カンナ) 「あははは♪ 幽霊じゃなくて神様な。」
すい) 「そうそう♪ 神様~!」
カンナ) 「あやチャンがそうやって怖がるから神様が拗ねてるぞ?」
あやめ) 「ひえぇぇぇ。あなたたちどんな会話してたのよ・・・。」
あやめはそんな話をしても何一つピンと来ないようだった。
夕飯を食べ終わるとまた三人で他愛のない話をした。
相変わらず天気は荒れていて屋根に打ち付ける雨音、雷や風の音が激しさを増していった・・・。
その時、
バチンっと電気が消えた。
「あ・・・!停電!大変だ・・・。なんとそ・・・。お、お化げ出そう~。」
あやめが慌ててロウソクを探しに行こうとしたが、少し酔っぱらっていたカンナが微笑むように笑い出した。
「ふふふ。ほら、あそこ。」
すいが「あっ!」と言って何かに気付いた。
「水神様・・・?」
あやめが悲鳴を上げた。
「でたぁぁぁ~!すい!すい!すい~!人魂~!お化げ見ぢゃったー!」
「あやめちゃん、大丈夫だよ!あの光は神様だから。」
そう言ってあやめの手を繋いだ。
三つの人魂の様な光が集まり、かつて見た光景が蘇ってきた。すいは耳を澄ますように神経を集中させてみた。
((ごにょごにょごにょ))
すい) 「あ・・・。また何か聞こえる。」
あやめ) 「え?なに?なに?こ、怖いよぅ~・・・。」
今度は目を閉じて集中してみた。
すい) 「わぁ~。・・・あやめちゃんも目を閉じて耳を澄ませてみて。」
あやめ) 「う、うん。やってみる・・・。」
すいは水神を見つけると話しかけてみた。
すい) 「水神様、やっとまた会えました。」
するとかつての様にすいの脳内に言葉が聞こえてくる感覚がしてきた。
水神) ((すいよ。わしはず~っとお主の傍に居ったぞ。))
すい) 「そ、そんなぁ・・・」
水神) ((これからは、お主が意識すればいつでも会えるぞ。水の女神としてこれからたくさんやらなければいけないことが待っておる。))
すい) 「へ、へぃ!」
あやめ) 「へい??す、すい?誰と話してるの?」
すい) 「水神様だよ。」
あやめ) 「ミズガミ様?・・・(スイジン様のことかな?)」
すい) 「うん。そうだよ。あ、あやめちゃんの神様もカンナさんの神様も見える!」
あやめ) 「え・・・?どこどこ!?」
すい) 「目を閉じてもっともっと奥を見るようにしてみて!」
あやめ) 「こ、こうかな??」
だんだんとあやめの目の前に赤い光が飛び込んでくる感覚がした。
「あ・・・。」
あやめに昔の記憶が蘇ってきた。幼い頃一緒に遊んだ小さな女の子・・・。
「・・・さっちゃん??」
((あやめちゃんー!やっと気付いてもらえた~!さっちゃんだよぅ!弁財天のさっちゃんだよぅ!))
「あ・・・・。」
あやめの目に涙が溢れてきた。
「・・・思い出した・・・。ごめんね・・・。ごめんね・・・。今まで気づかなくて。思い出しもしなくて・・・。」
((まったぐ!ほんっとに!もーう!))
あやめに宿る弁財天という神はどうやら軽い感じの神のようだ。
「う・・・うう・・・。私ったら・・・なして今まで・・・」
((色んな事、一生懸命がんばっていたんだもんね。ちょっと寂しかったけど、あやめちゃんは頑張り屋さんだから許してあげる。))
「さっちゃん・・・あ、えっと・・・弁財天様・・・。」
((もーう、さっちゃんでいいよ。また昔のように仲良ぐしてね、あやめちゃんダイスキだよ!))
その光景を見ていたすいとカンナも貰い泣きした。
・・・そしてなんと、水神は号泣していた。
三人は水神の号泣に驚いて唖然としていると、
((いやぁ~悪ぃな~。))
と声がした。
((ちょっと飲ませ過ぎたみてぇだなぁ~!水神のお陰でいい水でいい酒が出来たからよぅ、ちょっと飲ませてみたんだがぁ、水神が泣き上戸だったとはなぁ。へっへっへっへ。))
すい) 「酒神様・・・?」
((おう、水神んとこのすいチャンか、可愛いね~。へっへ~。))
カンナ) 「ちょっと酒神!すいチャンになんかしたらただじゃおかねーぞ?」
((お、おうよ。分かってるよぉ。ったく、カンナは怖ぇな~。))
すいは何となく気付いた。
(あの神様たち、何となくあの二人になんだか似てるなぁ・・・ってことはもしかして水神様ってすいみたいにおっちょこちょいなのかなぁ・・・)
酒神が上機嫌で話し始めた。
((まぁ、今日は色々と良かったじゃねぇか。こうして三柱の神が集い、宿い主が神を拝むことができた。そして酒神のおれが居るんだぁ、もう飲むしかねぇだろう~!さ、飲もう飲もう~はっはっは。))
カンナ) 「結局それかよ。」
水神が弁財天に語りかけた。
水神) ((お主、この機会にあやめ殿に力を授けては・・・グスン・・・どうじゃの?グスン))
弁財天) ((もう、やーだー!水神ちゃんまだ泣いでる~!うーげーるー!んだな、あやめちゃんにわらわの力を授げるな。・・・ほ~れ~!))
すると停電した真っ暗闇の部屋で、あやめたちの周りが眩しく光った。
あやめ 「え?なに?なに?」
すい 「わぁぁぁぁ♪」
カンナ 「おおお。(・・・エロいなぁ。)」
あやめ 「あわわわ!何この格好!?しょ、しょし(恥かし)ー!!」
弁財天((どう?わらわのコーディネート♪ 可愛いでしょ!これからはあやめちゃんが商売繁盛の女神としてこの地域を守っていくのよ!))
あやめ 「え・・・女神??・・・あれ?すいもカンちゃんも何だか不思議な格好してる!ナニコレ?夢?」
すい・カンナ「足元見て~(ニヤニヤ)」
あやめ 「え?・・・あ・・・私寝てる?・・・寝てる私を私が見てる?・・・ぎゃぁぁぁぁ!私死んだの?幽体離脱!?」
すいとカンナは笑いながら「大丈夫だよ。」と言ってくれたが、あまりにも夢のような不思議な世界にあやめは何もかもが信じられなかった。
そして、すいに宿る水神は最後にこう告げて消えて行った。
((万物に宿りし神々はお主と引き合わされる運命にあり。お主が気付かないだけでもうすでに出逢っておるのだ。))
電力が復旧し部屋の明かりがパッとついた。雨も雷も止んでいた。
横たわっていた三人は起き上がり、顔を見合わせた。
カンナ) 「ふぅ~。あれがアタシたちに宿る神々だよ。」
すい) 「夢じゃなかったんだ・・・。」
あやめ) 「女神・・・女神・・・え・・・私何をすればいいの??」
すい) 「きっと、何事にも一生懸命頑張ればいいんだよ。」
カンナ) 「そうだね。みんな、頑張ろうな!・・・しかし、それにしてもあやチャンの恰好・・・ふふふ。刺激的だったなぁ。あれは内に秘めている願望かぁ?」
あやめ) 「カ、カンちゃんに言われたくな~い!」
すい) 「二人ともセクシーな女神様でした♪」
カンナ) 「すいチャンは可愛かったね~。」
あやめ) 「うんうん。」
カンナ・あやめ) 「あの変な杖を除いて。」
すい) 「えぇ~!あれはきっと女神様のお仕事をするときにきっと役立つ杖です~!使い方分からないけどぉ~・・・。」
カンナ・あやめ) 「あははははは。」
あやめ) 「・・・それにしても、女神かぁ・・・。・・・うん。なんかやる気が出てきた。すい、頑張ろうね!」
すい) 「うん!黄桜すい、水の女神として頑張りますぃ!えへへへ~。」
【第10話/終わり】第二章・完
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あれから数日後。⇒https://youtu.be/wx2pWMsiVm4
【キャスト】
黄桜すい/CV 相葉ゆきこ様(ブラッシュアップ・ワン所属)
御殿鞠あやめ/CV 岡本理絵様(パワー・ライズ所属)
【協 力】
株式会社ブラッシュアップ・ワン様(http://www.brush-upone.com/)
株式会社パワー・ライズ様(http://www.power-rise.jp/)
イラストレーター:東城みな様
【企 画】
■黄桜すいプロジェクト