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【第2話/前篇】ママとお出かけ

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秋田へ引っ越してきて1週間ほどが経った。
まだまだ寒いが4月の日差しも少し感じられるようになってきた。

パパの通勤用、ママの買い物用にと、中古のワゴン車と軽自動車を2台買った。ここの生活には車が欠かせない。パパはもうすでに仕事が始まり、毎日張り切って転勤先の職場へ朝早く出かけていく。

すいはと言うと、4月から始まる高校生活の準備や転校の手続きをしたり、大好きなお菓子作りをしたりとママと二人で忙しくも充実した日々を過ごしていた。

ママ)「ねぇ、すい?」
すい)「ん~?なぁに?」
ママ)「今日は買い物ついでに海を見に行かない?」
すい)「わぁ!行きた~い!」

パパは山育ちだが、ママは本荘の海育ちで、久々に海が眺めたくなったようだった。

近くで聞いていたおじいちゃんが「おお、せば実家さも行ってゆっくりしてこい~」と言って、くしゃくしゃの千円札を取り出してきて、「駄賃っこやる」とすいとママにそれぞれ手渡した。

ママ)「私にまで・・・(笑)すみません~」
すい)「ふふっ。ママ、子供みたいだね~」

おじいちゃん)「んだ~ママも俺の子供みでぇなもんだがらな~」

3人で笑った。

「今日は雪降るがも知れねがら運転気ぃ付けれな」と言って、おじいちゃんはこれから雪が解けると忙しくなる農作業の準備のためビニールハウスの方へ出かけて行った。

 

―本荘公園―
ショッピングセンターで買い物を済ませた二人は、本荘公園へ向かった。

すい)「風が冷たいねっ、寒い~~~!」
ママ)「桜はまだまだ咲きそうにないわね。」
すい)「また桜が見られるなんて不思議~」

二人は桜を見るのが大好きで、まだ咲いていないと分かっていながらも桜の名所である本荘公園を満開の桜を想像しながら歩いた。

本荘公園周辺は大昔、城下町として栄えていた。古くからの老舗旅館があり、そこがママの実家である。今は姉が旅館の女将として継いでいる。

少し散歩した二人はママの実家へ向かった。旅館でお昼ご飯を食べることになっていた。

風格のある木造の門をくぐると、奇麗な庭があり、凛とした佇まいの本館が見えた。
すいは、まるで別世界に来たような、座敷わらしか何かが住み着いているような空気を感じた。

すい)「ごめんくださぁーい!こんにちわ~」

大きな玄関にすいの声が響いた。
叔母(ママの姉))「あら~~~!よぐ来てけだな~。すいちゃんこんにちは!こんなにべっぴんさんになっで~!」

小走りで出てきた元気な女将の声を聞いて二人は寒さが吹っ飛んだようだ。

すい)「叔母さん、あやめちゃん、いる~?」
叔母)「あやめばだ、部活さいったのよ~、会えねくて残念がってだよ~」
すい)「そっか~残念~」
ママ)「もうすぐ学校で会えるんじゃない?」

2つ年上の従姉妹、あやめの姿はなかったようだ。

昼食をご馳走になり、寛いだ二人は楽しみにしていた海へ向かった。

 

―本荘マリーナ―
風は強く、海は荒れ、遠くでは防波堤にぶつかった波しぶきが高く打ち上がっていた。

車を降りた二人は、目を閉じ潮風を浴びながら深呼吸した。

すい)「海があって、山があって、いいところだね、ママ」
ママ)「うん。」

4月の荒々しい日本海を肌で感じ、それから車の中で海を眺めながらまるで友達のように色んな事を語り合った。

やがて雲行きが怪しくなり、急いで岐路についた。

【第2話/後篇へ続く】

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