ゆりねと駅で別れ、あやめの家に着くと旅館の正門にバイクが停まっていた。
「わぁ~バイク!・・・そう言えば、あの女性ライダーさんカッコ良かったなぁ。すいもいつか!いや、すいはおっちょこちょいだから危ないかなぁ・・・。」
・・・そんな事を思い出しながら旅館裏の住居の方へ周り玄関を開けた。
「こんにちは~。遅くなりましたぁ。」
するとあやめが出て来て「すい、遅かったね。準備、大変だったんだが?」と出迎えてくれた。
すい) 「ううん、帰り道、クラスのゆりねちゃんとお喋りしながら駅まで行ってから来たの。」
あやめ) 「そっか、そっか!いまちょうどお客さん来てでな、すいも一緒にお茶でも飲みな?」
すい) 「お客さん??すいも一緒に居ていいの?」
あやめ) 「うん!ぜひ紹介してって言われて。さぁさ、入って入って!」
と言ってリビングに強引に連れて行かれた。
そこに居たのは、ライダースジャケットを着たあのカッコいい女性ライダー、松皮カンナだった。
すい) 「ふあぁぁ~!カンナさん!?」
あやめ) 「あれ?すい、知り合いだったの?」
カンナ) 「お?あんたがすいチャンか。聞いた通りの可愛いコだねぇ。アタシのこと知ってんの?」
カンナは持っていたコーヒーカップをテーブルに置き、組んでいた脚を下ろして立ち上がると、長い髪をかき上げた。
すい) 「え、あ、あの、今日お友達から聞いて、えっと、えっと、バイクで走って行くの見て・・・。」
すいはセクシーな大人の女性という感じの雰囲気にドキドキして顔が赤くなっていた。
(ゆりちゃんの気持ちがなんか分かった気がする・・・(ドキドキ))
あやめは「まぁ、座って座って」と言ってすいにお茶を立ててくれ、そして改めてすいをカンナに紹介した。
カンナは造り酒屋の娘で高校卒業後、家業を継ぎ修行中なのだそうで、昔からその酒をあやめの旅館に卸していたため、あやめとは小さい頃からの仲なのだそうだ。
今日はその酒の集金にやって来ていたのだった。
あやめ) 「カンちゃんは昔から目立ってたからねぇ~。」
カンナ) 「そうかぁ?アタシそんな悪い事してないけどなぁ。」
あやめ) 「あ・・・ま、まあ、それもあるけど、美人でカッコいいってウチらの代の子たちにはモテモテだったよ。」
カンナ) 「へぇ~。なんか照れるねぇ。女の子にキャーキャー言われるのも悪くないな。ははは。」
そんな話を聞きながらすいはゆりねが言っていた”伝説”の話を思い出し、真相を聞くため恐る恐る聞いてみた。
「あのぅ、と、虎の子番長って名がついた伝説ってなんのことですか?(き、聞いて良かったのかな・・・)」
すると、二人はキョトンとして顔を見合わせた。
あやめ・カンナ) 「あっはっはっはっはっはっは~!!」
二人は腹を抱えて笑っていた。
あやめ) 「カンちゃん!伝説だって!あははは!腹いでぇ~!」
カンナ) 「マジかぁ~!アタシ伝説になってんのかよ!あははは~!」
すい) 「へ??」
カンナ) 「虎の子ってゆうのはね、あれは饅頭のコトだよ。」
すい) 「おまんじゅうさん??」
あやめ) 「カンちゃんが高校生のどぎ、地元の矢島でお祭りがあって」
カンナ) 「そうそう、それで饅頭の早食い競争で優勝したって話。だけど伝説って言われるほどの事かぁ??」
あやめ) 「そりゃあ、もう、他の酒造さんとこの大食い男たちを圧倒して優勝したんだがら~。」
すい) 「ほぇ~。すごいです~!!」
カンナ) 「でも、あの時は気持ち良かったなぁ。オヤジに酒屋の名誉のためとかなんとか言って無理やり出されたんだけどさ、まあ、気合いでやっつけてやったよ。しかし伝説になってるとは噂って怖いね。」
あやめ) 「すいも出たらいい勝負になるかもね!ふふっ」
カンナ) 「お?すいチャン、そんな細い体で大食いなのか?」
すい) 「え!?うーん・・・すい、食べるのは大好きです!」
カンナ) 「うん。良い子だなぁ。アタシ、すいチャンのこと気に入っちゃったよ!」
あやめ) 「あれ?すい、顔が赤くなってるぞぉ?」
すい) 「え?(ドキッ)」
あやめ・カンナ) 「あははは。可愛いなぁ~。」
あやめはカンナに纏わる数々の武勇伝を教えてくれ、三人は時間を忘れ楽しくお喋りしたのだった。
(ゆりちゃん、虎の子番長さんはゆりちゃんの思っていた通りのとっても優しいひとだったよ。)
そして夕日が沈むころ、雨雲が空を覆い辺りは真っ暗になっていた。やがて強い雨が「ダダダダ」と屋根に打ち付けられる音がしてきた。
【第10話/後篇へ続く】
松皮 カンナ(まつかわ・かんな)
■20歳
■誕生日:6月30日
■身長:166cm
■鳥海山高校OB
■家:造り酒屋
■特技:スノーボード
■趣味:バイク・スノーモービル・鉄道
■好きな食べ物:松皮まんじゅう・日本酒
■好きな花:ヤマザクラ
■好きな動物:ヤマバト