「あんた、何してんのよ?」
あのリン子に対して強い口調で声を掛けてきたのはリン子のクラスメイトの霧下舞(きりしたまい)だった。
リン子) 「え?何・・・って?」
舞) 「あんた、下級生いじめてたんじゃないの?」
すい) 「あ・・・。」
すいの目はウルウルとしていた。
リン子) 「げっ!?違うって!す、すい、ウチいじめてなんかないよな?な?」
舞) 「ごめんね、すいちゃん。・・・あ!可愛いモウさんだねぇ。これすいちゃんが作ったのぉ?」
その言葉にすいはついに涙が溢れ出し、
「舞さーん!!」
と、思わず舞に飛びついた。
実は舞とはちょっとした知り合いで、すいにとって大恩人だったのだ。また会えた事と手作りマスコットを褒められた事が嬉しくてつい飛びついてしまったのだった。
舞) 「すいちゃん・・・。よっぽどリン子に酷い事言われたんだねぇ。」
リン子) 「いやぁ~。その牛がブタにしか見えなくてつい笑っちゃったんだよなぁ~あははは。舞、よく牛だって分かったなぁ~。」
舞) 「はぁ・・・。まったくあんたって・・・。どうみても牛じゃない。」
リン子はばつが悪そうに頭をポリポリと掻きながら、舞からすいの話を聞いていた事をこのとき教えてくれた。
リン子) 「いやぁ~。舞とすいの顔を見たらまた面白エピソード思い出しちゃったよ~。あはは。」
「えええぇ~。」すいはまた顔が真っ赤になった。
舞) 「あのねぇ、面白エピソードじゃないから!まったく。」
-リン子の言う面白エピソードとは・・・
5月のある日曜日、すいとパパ二人で渓流釣りに出かけた時のこと。
パパはどうも釣りがヘタでとにかく魚がたくさんいるところに、と思い、鳥海山の麓の渓流へとすいを連れて行ったのだ。
そこには、普段すいが暮らすこじんまりとした山や川とはスケールがまるで違い、雄大な大自然が広がっていた。
わくわくしながら散策していると、日本の滝百選の一つである法体の滝という大きな滝が見えた。
すいは初めて見る大きな大きな滝に興奮し、滝壺の方へ。
「おお~い!石が滑るから気をつけて~!」とパパ。
「へーき!へーきー!パパもおいでよ~!」とすい。
そしてその後、お約束のように滑って転んだすいは、服がびしょびしょになってしまい、二人は助けを求め車で近くの人が集まっている雰囲気の公民館に駆け込んだのだった。
そこでは「本海流獅子舞番楽」と呼ばれる民俗芸能の練習をしていて、意気消沈しながら「すみませ~ん・・・」と入って行ったすいを出迎えたのは激しく舞い踊る黒い獅子だった。
すいはびっくりして「ぎゃあぁぁぁぁ~!!」と言ってそのまま気絶してしまったのである。
その獅子を演じていたのが霧下舞で、気絶したすいを介抱し、タオルやジャージを貸してあげたりと面倒を見てくれたのだった。
その気絶していたときに何やらすいは寝言のように「獅子さん、獅子さん」と会話をしていたようで、それを舞が不思議な話として友達のリン子に話したことで「その子、めちゃくちゃ面白いやつだな~!」とリン子がすいに興味を持ったということだった。
リン子) 「ところですい、獅子と話してどうだった?喰われなかった?(ニヤニヤ)」
すい) 「ふぇ!?あ、えっと・・・その事はすい覚えてないんです~。」
舞) 「リン子ぉ~?」
リン子) 「あははは~。わりぃわりぃ!」
すい) 「でもすい、あの後、舞さんの獅子舞を見せてもらって、何て言うか、ビリビリビリ~!って体に電気が走ったみたいに凄かったです!感動しました!」
舞) 「へぇ~。嬉しいなぁ。私にとって獅子舞は大切なものだから。」
普段、あまり感情を顔に出さないおしとやかな舞が嬉しそうに笑った。
リン子) 「ふ~ん・・・。まあ、舞が獅子舞やると人が変わるってところが凄いよな~!あはは~!」
すい) 「もぉ~リン子さん~!」
舞) 「いいの、いいの、この人はねぇこういうガサツな性格だから。すいちゃんも変なこと言われても気にしないでね。」
リン子) 「ちょ、ガサツって・・・!」
すい) 「はい。すいも慣れちゃいましたぁ~。」
リン子) 「えぇぇ・・・。まいったな~。すいませんねえ~。」
舞・すい) 「それ、ダジャレ??」
リン子) 「ん・・・?・・・あっ!」
「あははははは。」
三人で大笑いしながら学校へと向かったのだった。
【第9話】終わり
霧下 舞(きりした・まい)2年生
■高校2年生/17歳
■身長:162cm
■通学:由利本荘市鳥海地区(旧鳥海町)由利高原鉄道鳥海山ろく線で矢島駅から羽後本荘駅へ
■家:そば屋
■特技:獅子舞
■部活:ボート部
■好きな食べ物:百宅(ももやけ)そば
■好きな花:ツツジ・りんどう
■好きな動物:ヤマドリ
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