chapter2

【第6話/後篇】帰り道

更新日:

681bbacb-6df7-46b3-8a05-f38d480468ee-11184-00000f57af73c8a3

さつきが去ったあと、すいも帰ろうと教室を出た。

すいは部活に入っていない。クラスメイトが勧誘したり、あやめも茶道部に誘ったりしてくれるのだが、すいは部活には入らず学校が終わると真っ直ぐ家に帰っている。

「ぺー太、何してるかなぁ~!」

いまは一生懸命世話をしている畑や子牛のぺー太が気になってしょうがないのだった。

「おぉ~い!すい~!」

校門を出たすいを見つけたあやめは大きな声で呼び止めた。

すい )「あっ。あやめちゃーん!今日は部活ないの?」

あやめ )「んだ。茶道部は毎日はねんだよぉ。茶道部はいいぞぉ。すいも入れ入れ。」

この通り、あやめは年頃の子の割にはよく方言が出る。

すい )「え~でもぉ、ペー太が~。」

あやめ )「ふふっ。すいはほんとめんけな~!・・・あ、可愛いなぁ。」

それでも本人は訛らないように気をつけているようだ。

そんな素朴な性格のあやめだが、容姿端麗で旅館の娘、そして茶道部の部長でもあることから振る舞いやしぐさも目を引き、後輩たちの憧れの存在でもある。

あやめ )「あ、ねぇ、すい。」

すい )「なぁーに?」

あやめ )「せっかくだがら、うぢさ寄ってがねが?」

すい )「ん??・・・がねがってなに??」

あやめ )「あ・・・!!うちに寄っていかない?ってこと!もぉーやだー。訛っちゃったー!」

すい )「あ~!そうだった、おじいちゃんもそんな感じだった~!いぐいぐ!」

特にすいの前では気が緩みつい方言が出てしまうようだ。

あやめ )「やんた~!すいは訛らなくていいよぉ~。」

すい )「えへへ、すいは秋田弁を勉強中なのです!」

あやめ )「もぅ、そんなの覚えなくていいのに~」

すい )「ええ~、だって方言ってなんだかあったかくていいんだもん。毎日バスで一緒になるおばあちゃんたちに癒されてるんだぁ。」

あやめ )「へ~、んだなが~」

すい )「んだよぉ~」

二人は笑い合い、遠くにそびえる鳥海山を眺めながらあやめの家へと歩いた。

「ただいまぁ。」

旅館の裏側の自宅玄関をガラっと開けてすぐにあやめの母がバタバタと駆け寄ってきた。

「あやめ!おかえり!悪りんだどもちょっと手伝ってけねが?今忙しくて~」

あやめ )「え!すいも連れて来たんだけど~」

すい )「叔母さん、こんにちは~。」

「あら!すいちゃーん!いらっしゃい!ちょっとあやめどご借りるけどすぐ終わるがらゆっくりしてってけれな!」

あやめ )「ぇぇぇ・・・人使い荒いなぁ~」

「ごめん!ちょっとだけだがら~」

すいはリビングでお茶を飲み寛ぎながら旅館の手伝いしているあやめを待っていた。

「はぁぁぁぁ。落ち着くなぁ~」

すると、

「ふふふふふ」

と子供の声が聞こえた。

「え?」

旅館に泊まりに来ていた子供があやめの暮らす自宅の方へ迷って入って来てしまったのかと思い探してみたが見当たらなかった。

するとまた「ふふふふふ」と。

「あれれ?」

そこに叔母がバタバタと忙しそうに何かを探しにやってきた。

「ねえ、叔母さん?」

「あ、ごめんね~!あやめもうすぐ終わるがらね~!」

「ううん、えっとねぇ、」

「ん~?」

「な、なんかねぇ、子供の声が聞こえたんだけど・・・」

叔母はキョトンとして手を止めすいを見つめた。

「あ・・・!でも気のせいだったかも~!」

すると叔母は昔を思い出したように話し始めた。

「そう言えば、あやめが小っちぇがった頃な、よぐお友達の女の子と遊んだんだよ~って。」

「???」

「旅館忙しくてかまってあげれねがったがらそういう夢みだいなごど言ってたのがな~て思ったんだどもな、よぐ考えだら私も小っちぇころ女の子の声っこ聞ぃだごどあったんだ~」

「へ~。じゃあ気のせいじゃなかったんだぁ~。」

「んだ。その子は座敷わらしがも知れねな」

「ざ、座敷わらし!?」

「んだよ~。商売繁盛の神様なんだよ。」

「へ~!」

「・・・だどいいなど思ってる。すいちゃん、もし会ったら仲良ぐしてけれな。」

そう言って叔母はまた旅館の方へ戻って行った。

「すい~ごめんねぇ~今終わったよ!」

あやめが旅館の手伝いを終えて戻ってきた。

すい )「あやめちゃん。」

あやめ )「ん?なに?」

すい )「座敷わらしいた!」

あやめ )「え?なにそれ?こわーい!」

すい )「えええ~座敷わらしだよう、女の子の、商売繁盛の、神様だよぅ~」

あやめ )「あはは~。すいは面白しぇやづだなぁ~♪」

あやめは昔の事をすっかり忘れていたようで、不思議な事を言うすいの頭を撫でて笑っていた。

すい(ふえぇぇ~・・・)

夕方、ママが車で迎えに来てくれた。

帰り道、ママに座敷わらしの話をすると、見た事はないが子供のころ実家でよく女の子の声がするのを不思議がった話や、昔ママが里帰りしたとき、まだ小さかったすいが「女の子、女の子」と言っていたことを思い出し教えてくれた。

「すいも小さい頃見た事があったのかなぁ・・・。色んな神様がいるんだなぁ。」

そう言いながら水神様と出会った話を初めてママに打ち明けてみると、「わ~、楽しそ~♪」と興味津々に聞いてくれた。

これからたくさんの不思議な体験が待ち構えていることをこの時のすいはまだ知らない。

4615eab7-7929-4e4d-aa51-17dc5eac9405-11113-00000f4f0ad9f692

【第6話/終わり】

 

御殿鞠あやめ(ごてんまり・あやめ)
■高校3年生/18歳
■誕生日:5月10日
■身長:163cm
■由利本荘市(旧本荘市)鳥海山高校まで徒歩10分
■よく方言が出るが本人に自覚はない
■黄桜すいの従姉妹(母同士が姉妹)
■旅館の娘
■特技:民謡・三味線・秋田弁
■好きな音楽:民謡・洋楽(ロック)
■部活:茶道部(部長)
■好きな食べ物:もろこし・うどん・ハムフライ
■好きな花:菖蒲(しょうぶ)
■旧本荘市の伝統工芸品:本荘ごてんまり

クラウドファンディング実施中!ご支援よろしくお願い致します!

-chapter2

Copyright© 黄桜すい物語 , 2024 AllRights Reserved.