入学式を終え、新入生らしい特有の廊下での賑やかさも落ち着き、すいの由利本荘市立鳥海山高校での学生生活はスタートしていた。
人懐っこい性格のすいはすぐに友達もでき、近所にも同じ学年のこがいることも分かった。と言っても田舎の近所の感覚では自転車で10分程のところではあるが。
同じ高校に通う3年生のいとこ、あやめは、すいの様子を見にちょくちょく顔を出しに来てくれる。
旅館の娘であり、茶道部部長でもある あやめは熱心にすいを茶道部に勧誘するが、食いしん坊のすいは和菓子に魅かれつつも、結局、アクティブな性格が故に茶道は退屈そうに思えてお断りした。
すいの朝はこうだ。
日の出と共に起きるおじいちゃんのガサガサと外に行く準備をしている音で飛び起き、一緒に牛の飼料をあげに行く。
牛は数頭育てている。先日子牛が生まれ、すいが「ぺー太」と名付けた。
すいはペー太が可愛くてよく話しかけている。
おじいちゃんは、すいがペー太をあまり可愛がりすぎて、いつか売られ去っていったときに悲しむのではないかと考えると心中複雑だった。
だからなのか、すいの前では牛には無関心を装って仕事をしているが、誰もいなくなるとおじいちゃんも牛たちによく話しかけているのだった。
それから、ママと一緒に朝ごはんや、すいとパパ、時々山に出かけるおじいちゃんのお弁当の支度をする。
早起きで慌ただしい朝だが、すいにとってとても和む大好きな朝だ。・・・その分、夜は弱くすぐ寝てしまうが。
6時半頃には家を出る。
自転車で数分のところにあるバス停へ向かい、町内の高校生たちと一緒にバスで40分ほどかけ、街なかの鳥海山高校近くで降りる。
それから数キロ歩き学校へたどり着く。ときどき従姉妹のあやめと一緒になることもある。
学校がある日はそんな感じだが、
学校がない日もすいは早起きをしておじいちゃんと牛の世話をしたり、牛舎に住み着いた猫たちと遊んだりしているのだった。
そして、今日は土曜日の朝。
学校がなくともすいはいつものように早起きをしていつもの日課を終えた。
「今日はどんな一日になるのかなぁ~!」
朝日が眩しく差し込み、ワクワクして心が躍った。
【第3話/後篇へ続く】