海からの帰り道、ボツボツと、やがてダダダダーっという雪交じりの雨が降ってきた。
「すい、眠かったら寝てもいいのよ。」とハンドルを握りながらママが気遣ってくれたが、
今までペーパードライバーだったママの運転に行きも帰りも不安でガチガチに緊張していたすいだった。
街から離れ、東由利に差し掛かる長い「銀河トンネル」を抜けると、薄ら白く降り積もった雪景色になっていた。
ママ)「ええ!?雪積もっちゃったの~?」
すい)「ママ、気をつけてね!」
ドキドキしながらすいが声を掛けた。
そして続けて「童画のトンネル」を抜けると道路も真っ白に。
「きゃー!」
その時、轍でハンドルが取られ車が横滑りをした。
ガダン!
一瞬の出来事に二人は何が起きたのか分からなかったが、周りを見まわして違和感に気付いた。
軽自動車が縁石に乗り上げてタイヤが浮いた状態になっていた。
お互いの無事を確認し安心したのも束の間、二人はこれからどうしたらいいのか分からずパニックになった。
ママ)「困ったわ・・・どうしましょう~」
まだ午後の3時過ぎではあったが、ぶ厚い雲が覆いどんよりとした空はさらに不安を煽った。
「おじいちゃんに電話しよう!」すいが言った。
農作業をしているはずのおじいちゃんが家の電話に出てくれるのか分からなかったが、とにかく携帯電話から家に電話を掛けてみた。
するとすぐに「ガチャ」と。そして、緊張した様子のおじいちゃんの声が。
「もしもし!??」
まるでこのことを予想していたかのように、すいとママからだと思い込んでの第一声だった。
作業をしていたおじいちゃんは雪が降り積りそうだったので、もしも二人に何かあったらと思い落ち着かず家に帰って来ていた。
ママが状況を説明すると、
「二人ともなんともねが?」
「今いぐがら待ってれな」
そう言って電話が切れた。
すいとママは、エンジンを切り、車の中で凍えながら待った。しばらく待っている間に通りすがりのドライバーが声を掛けてくれたりしたが、成す術もないので安否を確認して去って行った。恥ずかしいやら寒いやら、すいを危険な目に合わせてしまったショックやらでママは落ち込んでいた。
「ママ、おじいちゃんが来てくれるから大丈夫だよ!」すいが励ました。
普通ではないヘッドライトが眩しく見えた。
「あれ!おじいちゃんかなぁ?」
近づいてきたバケットを装備したトラクターにはおじいちゃんが乗っていた。
「おじいちゃーん!」「お義父さーん!」二人は目を赤くして叫んだ。
「寒がったべ?今、車降ろしてやるがらな。」
そういって、トラクターのバケットを軽自動車の下に差し込み上手に道路に戻した。
離れて作業を見守っていた二人は見事なトラクターの操縦に感動していた。
「無事でいがったいがった~(良かった)車もなんともねさそだ。」
「あったげぐしておだがら、さぎえさ帰ってれな」
※(暖かくしておいたから先に家に帰っててな)
と言ってトラクターで駆け付けたおじいちゃんは時速30キロでダガダガダガ~と引き返して行った。
トラクターを追い越して行くときにやっと気付いたことだったが、おじいちゃんのトラクターには屋根はあるものの全てを囲うキャビンが無い。もちろん暖房もない。
「おじいちゃん寒かっただろうな。」すいとママはそれぞれ心の中で呟いた。
夕方、パパが帰ってきてみんなで食卓を囲みながら興奮気味に今日の出来事をすいは話した。パパはとても驚いていたが、「じいちゃん凄いだろ~?」と何故か誇らしげに言った。
そして、「本当に無事でよかった。」と気が抜けたようだった。
夕飯後には、形の崩れたケーキが出てきた。
それは、おじいちゃんに貰ったお小遣いで、すいとママが選んで買ってきたケーキだった。
今日の思わぬアクシデントで形は崩れてしまったが、みんな笑顔で美味しく食べた。
仏壇にはおばあちゃんが好きだったモンブランケーキをお供えした。ふと見ると、写真の中のおばあちゃんは微笑んでいるように見えた。
【第2話・終わり】