すいたちが一泊旅行に出掛けた日も、その翌日も、おじいちゃんは一人で田植えの準備のためトラクターで田んぼを耕していた。
田んぼの一区画を仕上げ一息つこうとトラクターを道端に乗り上げた。エンジンを止め、降りようとしたところ不意に転落してしまった。
昔、熊に引っかかれたあの首から胸に刻まれた深い傷跡のせいで、時々左手が少し麻痺するため手の力が抜けたのだった。
それを通りがかりに発見した近所のげんじろじっちゃが「さぁさぁさぁー!」と慌てて病院に無理やり連れて行った。
そして、黙ってろと口止めされていたのに旅行から帰って来たばかりのパパに大騒ぎで喋ってしまったものだから、家族みんなが知ることとなった。
それを聞いたパパは、代わりにやらなければいけないと有給を取り会社を休んだのだった。
腰を打撲したおじいちゃんは到底隠し通せるほど軽い怪我ではなかった。
次の日、
げんじろじっちゃに手伝ってもらいながら、パパは田植えの準備を、すいは朝と学校から帰って来てからの夕方、牛の世話をした。
「へぇ・・・!パパ、トラクター乗ってる!かっこいい!」
小さい頃からずっと田んぼの手伝いをしていたとは聞いていたがパパはそれなりに農業について心得ていたようだった。
それと、おじいちゃんが元気なうちはあまりしゃしゃり出ないようにとも心得ていたようだ。
3人兄弟の長男だったパパは一人だけ小さい頃から農作業を手伝っていたが、今まで家業を継いでくれとは一言も言われたことがない。
農作業の感覚が蘇ってきたことと、すいにおだてられたことで農業っていいな。と思ったパパだが、当然、家族を養っていけるほどの自信は持てなかった。
そんな事とは裏腹に、すいは一人で牛の世話をしたり、ママと畑を作ったりと農業への好奇心で溢れていた。
おじいちゃん「みんな、わりな~・・・(申し訳ないな)」
すい )「おじいちゃん、そればっかり言ってるー。」
おじいちゃん )「みんなさめいわぐかげでしゃって(迷惑かけてしまって)・・・あど治ったがら」
すい )「だめだめ!おじいちゃんはゆっくり休んでしっかり治してね!」
パパ )「んだんだ~!父さん、おれも中々やるべ~?」
おじいちゃん )「んんー・・・・んだな。」
すい )「んだんだ~~~!」
ママ )「ふふふふふ。」
今まで息子家族には迷惑を掛けまい、心配させまいとしてきたおじいちゃんだからこそ、自分の不注意で迷惑と心配を掛けてしまったことをずっと後悔していたが、その日の夕食、おじいちゃんがやっと笑顔になり、みんなで笑った。
かなりヘトヘトになっていたパパだったが、
すいは達成感で満ち溢れていた。
「農業っていいな。」
すいの農業への好奇心はどんどん膨らんでいくのだった。
【第4話・終わり】