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【第6話/前篇】鳥海山高校

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6月。あの不思議な体験から1週間ほどが経った。

あの日以来、不思議な事は起こらず、水神様の声も聞こえなければおばあちゃんに再び出会う事もなかったが、相変わらず遺影のおばあちゃんは優しく微笑んでいた。

東京から引っ越してきてすぐに秋田の鳥海山(ちょうかいさん)高校に入学したすいは従姉妹のあやめ以外に知り合いがまったくいなかったが、持ち前の明るさと天然ぶりですぐにバス通学で顔を合わせる同年代の子やお年寄りとも仲良くなり、クラスでも「すいちゃん」と呼ばれ楽しく高校生活を過ごしていた。

鳥海山高校は由利本荘市の旧本荘市にある。
1市7町が合併した由利本荘市は日本海があり、出羽富士とも言われる富士山に似た美しい大きな鳥海山がある。
旧本荘市を中心に旧7町が日本海に面していたり、すいの暮らす旧東由利町のように鳥海山系の山あいに位置している。

旧7町のほとんどの高校生たちはそれぞれ羽越本線の電車や羽後交通のバスに乗り、旧本荘市中心街にある羽後本荘駅へと集まってくる。

すいは毎日楽しく高校へ通っている。

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「それでは、文化祭の催し物ついての話し合いをしていきたいと思います。」

ハキハキとした口調でクラスの学級委員長が話し始めた。

(わぁ・・・少し前までみんな中学生だったのに学級委員長さんはしっかりしててすごいなぁ。)

学級委員長が黒板に書く達筆に見とれながら尊敬のまなざしで見つめていた。

「黄桜さん。何か言いたそうなのでどうぞ。」

目が合い突然指名された。

「えっ、あ、はいぃ!ええと、ええとぉ・・・クレープとたこ焼きが食べたいですぃー!・・・あ!屋さんがしたいです、でした・・・!」

すでに「食いしん坊すいちゃん」が定着してしまっていたすいにクラスのみんなは大笑いして盛り上がったのだが、「どっちか一つにしましょうね。」と学級委員長からピシャッと冷静に突っ込まれ、たじたじになるすいだった。

(あ~やっちゃった~恥ずかしいぃ~。)

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―放課後―

(うーん・・・あれは・・・幽体離脱だったのかなぁ・・・やっぱり夢・・・かなぁ・・・水神様もう出てこないのかなぁ・・・呼びかけてみようかなぁ・・・)

すいはみんなが帰り始める中、席に座ったまま1週間ほど前の不思議な体験を思い出しぼーーっとしていた。

「黄桜さん!?」

「はぅっ!!?」

いつも「すいちゃん」と呼ばれているすいだが、普段、先生以外に苗字で呼ばれることはほとんどないため驚いて振り返った。

「あなた、なにか一人で喋っていたけど大丈夫?」

声を掛けてきたのは学級委員長の芋川さつきだった。

「え、な、なんでもないよー。ただぼーっとしてただけだよぉ~(キャー!声に出てたー!!)」

「・・・黄桜さんって不思議な人ね。」

まるっきりタイプの違うさつきとまともに喋ったのはこれが初めてだったのかも知れない。

「そ、そうかなぁ?(よく言われるけど・・・)」

さつきは物静かだがハキハキと喋る。ショートカットでメガネの似合ういかにも優等生という感じの娘である。

さつきはすいの顔をじーっと見つめた。

すい )「な、なにー?どーしたの?さつきちゃん!?」

すいはどこまで話を聞かれていたのか気になってドキドキした。

さつき )「あなた・・・」

すい )「う、うん?(ゴクッ)」

さつき )「・・・「ぼーー」って言いながらぼーっとしてる人初めて見たわ」

すい )「えぇぇぇぇー。(声出てたのそっちかあぁぁ~!)」

さつきはクスクスと笑い「またね」と言って立ち去って行った。

普段、成績優秀、しっかりとクラスをまとめている冷静な表情とは違った素顔にすいは少しほっこりした。

そして、どこか懐かしさに似た安らぎをさつきに感じたのだった。

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【第6話・後篇へ続く】

 

芋川さつき(いもかわ・さつき)
■高校1年生/16歳
■身長:156cm
■通学:由利本荘市大内地区(旧大内町)から羽後交通のバスで羽後本荘駅へ
■学級委員長
■家:お寺の娘
■特技:書道・勉強
■部活:弓道部
■好きな食べ物:とろろ飯
■好きな花:皐月(サツキ)

 

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